入札には様々なジャンルがありますが、自治体への物品の販売や、サービスの提供は、物品・役務と呼ばれ、市場規模も非常に大きい分野になります。本記事では、物品・役務の入札に参加する方法を、入札初心者でもわかりやすいように徹底解説していきます。
物品・役務の入札とは?
まず、入札とは、国や地方自治体、外郭団体(独立行政法人等)などの公的機関が、民間業者に業務を発注する調達制度の事です。これらの公的機関が行う公共事業は税収が財源になっている為、最も優れた(低価格・高品質)調達方法が求められます。その為、不特定多数の候補者(民間業者)を募り、最も有利な提案をした候補者と契約を結ぶ、入札により、発注先を決定する方式がとられています。
入札は、大きく2つのジャンルに分けられます。1つが道路や公共施設を作る「公共工事」に関する入札で、工事や建設コンサルタント(測量・地盤調査等)といった種類に分けられます。そしてもう1つが、役所が使用する備品や機械類等を販売したり、役所の業務を代わりに代行する、「物品・役務」に関する入札になります。本記事では、このうち「物品・役務」について詳しく解説していきます。
※公共工事の入札について詳しく知りたい方は「公共工事の入札に参加する方法!」を参照ください
物品の入札の具体例
物品と一言にいっても、様々なものが入札の対象となります。役所などの公的機関は、日々の業務で様々な備品を消費し、また機械なども定期的に買い替えを行います。これらの購入は基本的には全て入札で購入先を決定しますので、物品の入札には非常に多種多様な案件がでています。
一例として、東京都の物品の種類を見ていきましょう。これらの品目を取り扱っている民間業者であれば、入札に参加できるチャンスがあるといういう事になります。
役務の入札の具体例
次に、役務について見ていきましょう。役務は一言でいえば「サービスの提供」をすることです。市が管理する公園の除草(草刈り)や、公共施設の清掃などが分かりやすい例になります。サービスの数だけ役務の案件は存在しますので、物品同様、非常に多種多様な案件があります。
一例として、東京都の役務の種類を見ていきましょう。これらのサービスを提供している民間業者は、役務の入札参加のチャンスがあるという事になります(東京都は役務ではなく「委託等」という名称になります)。
物品・役務の入札に参加するための手続き
物品・役務の入札に参加する為には、入札の発注機関である官公庁や自治体の、入札参加資格を取得する必要があります。例えば、東京都と神奈川県の入札に参加したい場合は、それぞれの入札参加資格を取得する必要があります。
いきなり東京都にいって、当社の製品を買ってください、といってもダメということです。入札参加資格を取得する手続きをして、東京都から入札に参加しても問題ない会社であるというお墨付きをもらって、初めて入札に参加することが可能になります。入札参加資格を得ると、自治体が保有する参加資格者名簿に登録されることから、参加資格を得ることを、自治体の「名簿に載る」という言い方もします。
また、入札参加資格の申請は、申請の受付時期が発注機関で異なる為、受付期間が先であれば、それだけ入札参加の時期も遅れる為、注意が必要です。また、入札参加資格の申請から取得までは、発注機関にもよりますが、1~2か月かかるケースが多い為、計画的に準備を進める必要があります。
申請書類の作成も計画的に進めよう
入札参加資格申請に必要な申請書類は、発注機関指定の申請書類に加えて、納税証明書や決算書類など、準備に時間がかかるものも含まれます。特に納税証明書のような、役所で発行する必要がある公的書類は、計画的に取得を進めておきましょう。なお、申請に必要な書類は、発注機関毎に異なりますので、それぞれの手引きを確認して、準備を進めるようにしましょう。
※入札参加資格について詳しく知りたい方は「入札参加資格とは?」を参照ください
初めての入札は要注意!物品・役務の注意点3選
物品・役務の入札に初めて参加する場合は、特に注意が必要なポイントを3つご紹介します。「苦労して入札参加の手続きをしたのに、入札で仕事を全然受注できない…」という事にならないよう、以下の3つは確実に押さえておきましょう。
実績が入札に大きく影響する
物品や役務の入札には、会社の実績が大きく影響してきます。特に重要なのが、入札で受注したい案件に関する実績になります。例えば、自治体から除草の仕事を請け負いたい場合は、他の自治体や民間企業相手に、どれだけ除草の実績があるかによって、入札の成果が変わってきます。多くの発注機関は、入札案件において、業務の実績があることを参加条件にしている事が多いからです。
また、発注機関によっては、「等級」というものを設けており、業務の実績に応じて資格者をA,B,Cのようにランク分けします。そのランクによって、入札に参加できる案件の規模が変わってきますので、実績が少ないと小さい規模の仕事しか入れないというケースも考えられます。
また発注機関によっては、実績がなければそもそも入札参加資格を取得できないケースや、参加資格は取得でいても等級が付かず(無格付け)、入札には参加ができない、といったケースもありますので、仕事を受けたい発注機関が、実績をどれだけ重視しているかを事前に詳しく調査しておく必要があります。
地元業者が優遇されるケースがある
入札は税金で行われるため、当然、市税等の自治体の税収も財源となります。その為、市税を収めている地元業者を優遇する案件も多くあります。例えば、発注者の自治体内に、営業所を設けていることを、入札参加の条件にしているケースは多く見られます。
また、指名競争入札といって、入札参加資格業者の中から、発注機関が指名した候補者の中で入札が行われる方式もあり、その場合、地元業者が優先的に指名されるケースもあります。参加したいなと思っている入札に、地元業者を優遇する条件や、地元業者以外が参加できない条件が付いていないかを、事前に確認することが重要です。
入札は、主に一般競争入札といわれる、不特定多数の参加申込を募り、その中で最も有利(安価)な条件を提示した候補者と契約する方式が取られますが、その中でも、地元業者優遇などの制限(条件)を設けて公募がされる入札を「制限(条件)付き一般競争入札」と呼びます。
また、発注機関が指名した業者の中で入札が行われる「指名競争入札」や、何らかの事情により、競争入札を行わずに発注機関が任意の事業者と契約をする「随意契約」という方式もあります。
発注機関によって物品か役務かの扱いが異なる
特に複数の発注機関の入札に参加する場合は、発注機関ごとのルールに違いがあることを認識しておく必要があります。例えば、同じ業務であっても、物品として扱うか、役務として扱うかに違いがあります。例をあげますと、先ほど紹介した東京都の場合は「除草・草刈」は委託等として扱われていますが、北九州市の場合は、「草刈」は物品等として扱われています。北九州市の場合、役務の区分を設けておらず、物品の販売であっても、サービスの提供であっても全て物品等として扱っている為です(そのような自治体は他にもあります)。
また、役務ではなく「委託」や「委託役務」、「業務委託」など、呼び方も発注機関により異なります。最初はとっつきにくいかもしれませんが、参加したい発注機関ごとのルールをしっかりと把握したうえで、参加手続きに臨むようにしましょう。
入札から案件受注までの流れ
入札参加資格を取得すれば、発注機関の入札に参加することが可能になります。ここからは、入札案件の調査から案件受注までの流れをご紹介します。
入札案件は、発注機関のホームページや独自の電子入札システムなどで、公開されており、一般競争入札であれば誰でも閲覧が可能です。案件の詳細は、公告という形で公開されますので、公告の中身を確認し、自社が参加できそうな案件かを、業務の概要や参加条件、入札方式から確認し、入札に参加するかを検討します。
参加したい案件が決まれば、案件の仕様書を入手し、業務にかかる工数を見積もりながら、入札価格を決定します。仕様書の入手方法は、最近はWebサイトからダウンロードできるケースが多いですが、案件によっては、仕様書の取得に説明会への参加が義務付けられているようなケースもあります。
入札価格が決まれば、入札を行います。入札方法は発注機関や案件により異なります。最近は電子入札が主流ですが、紙入札のケースもあります。入札の受付期間は1日や長くても数日の場合が多く、予定の管理が必須となります。
入札が締め切られると、多くの場合は即日や翌日には入札結果が公表され、最も安価な価格の候補者から優先的に落札者となります。
落札者に決定した事業者は、発注機関と契約します。何らかの理由で第一候補者が契約を締結しなかった場合、次に入札価格が低かった第二候補者が契約を行う事になります。
物品・役務の入札に参加するメリット
入札に参加するメリットは多くありますが、特に魅力的と思われるメリットを4つご紹介します。
①営業コストがかからない
入札は、基本的に参加資格を持っている事業者であれば参加可能ですので、広告宣伝費や営業マンに支払う人件費などがかからないというメリットがあります。
②景気に関わらず安定して案件がある
入札案件は、景気の影響を受けづらく、安定して発注される点が魅力のひとつです。入札に入れるできる体制を整えておくことで、不況の影響などを受けづらく経営が安定しやすくなります。
③未払いや支払い遅延のリスクが無い
入札案件は、税収で行わるため、未払いのリスクがありません。また、民間企業のように支払いが遅延するようなリスクもなく、資金繰りを安定させることが可能です。
④会社としての信用力があがる
入札の受注実績は、国や地方自治体から、サービスや製品を認められた証ともいえます。その為、対外的な会社の信用力があがり、求人活動や銀行での融資調達などに有利にはたらくメリットがあります。
まとめ
以上、ここまで、物品・役務の入札に参加する方法をご紹介してきました。参加手続きが少し面倒だと感じるかもしれませんが、言い換えれば、それだけ参入障壁が高いとも言えます。入札の仕事を定期的に受注できれば、経営の安定にも繋がりますので、入札を検討されている事業者様は、ぜひ一度トライされてみてはいかがでしょうか。